アメリカで10年ほど前に誘拐され、家の中に監禁されていた女性3人が救出された。捜査当局は、容疑者の元スクールバス運転手の男を逮捕、女性3人に対する誘拐と性的暴行の罪で訴追した。日本でも13年前、新潟県で同じような監禁事件があった。
 鍵のかかった部屋に閉じ込められた被害者は泣き叫び、必死に脱出を試みたが、やがてそれがムダな抵抗だと分かり、黙って犯人の要求を受け入れてきたのだろう。女性を狙う猟奇的な犯罪は世界中で多発している。
 有名な心理学者の実験によると、動物も人間も肉体的苦痛、精神的ストレスにさらされ、どうあがいても逃れられないと知ったとき、抵抗をあきらめ、無気力状態に陥る。さらに、続けて別の形の苦痛を受けた場合、それを回避できる道があるにもかかわらず、抵抗せず苦痛を受け続けるという。これが今回の監禁事件の加害者と被害者、飼い主と飼い犬のような主従関係なのだろう。
 日本では児童虐待があとをたたない。子どもはやさしく守ってくれるはずの親の暴行、その現実をとうてい受け入れられない。いくら泣きわめいても逃れられないことを知ったとき、混乱した頭は「大好きなパパやママがいじめるのは私じゃない」と、自分の中に別の人格(他人)をつくり出し、多重人格(解離性同一性障害)となってしまうこともある。
 人は苦痛やストレスを受け続けると、無気力からやがて抑うつ症状が表れる。深刻なうつ病に陥らないためには、現状はいつか改善すると信じる楽観的な思考が大切ともいわれるが、虐待を受ける幼い子どもや女性はそうもいかない。学校の先生や近所の人の見守り意識が救出につながる。  (静)