富士山のユネスコ世界遺産登録がほぼ確実となった。当初は自然遺産での登録を目指していたがあまりのゴミの多さに断念。文化遺産に切り替えたという。そのニュースを見ながら真っ先に思い出したのは、8年前の市民教養講座で御坊市を訪れた、アルピニスト野口健さんの講演だ◆7大陸の世界最高峰登山を最年少で達成した野口さん。講演ではエベレストであまりのゴミの多さに衝撃を受け、「清掃登山」を開始した顛末が述べられた。その時、富士山がゴミのひどさで世界遺産登録が頓挫したことも語られ、筆者も日本一高く美しいはずの山がそんな状況になっていることを非常に残念に思った◆野口さんは「富士山から日本を変える」をスローガンに、富士での清掃登山を敢行。いつだったか、テレビ番組で野口さんが、富士の状況がかなり改善されていることを明るい表情で話しているのを見た。そして今回のニュース。野口さん達の努力はずっと続けられており、それがいま実を結んだのかと思うと深い感慨を覚えた◆みんながゴミを捨てていれば自分もそこに捨てる。それも日本人なら、目標に向かって努力し望んだ成果を挙げるのも日本人。この富士山世界遺産登録を巡る一連の経過に、日本人の欠点と美点を同時に見たような気がする◆正式決定は6月の見通しというが、むしろそれ以後が肝心なのかもしれない。今までよりさらに多くの人が訪れるようになっても、いつまでも美しい富士を守り続けられるか。地道な活動で景観を改善した人々の努力が水泡に帰すことのないよう、富士の優美でしかも凛とした品格を、我々日本人も心の奥底に持っていることを願いたい。
(里)