財布の中に、見慣れないデザインの100円玉が2枚あることに気づいた。自販機の釣り銭にまぎれ込んでいたようだ。「100」の文字が小さく、裏には城の絵。外国のコインかと思ったが、「日本国百円」の文字がある。よく調べると、1975年(昭和50年)の沖縄海洋博記念貨幣であった
 ◆大阪万博の5年後にそんな博覧会があったとは知らなかった。ネットで調べたところ、沖縄の本土復帰記念事業として7月20日から翌年1月18日まで開催。動員目標の450万人に100万人ほど足りず、経済は開催前よりむしろ悪化。成功とは言い難かったようだ。夏のよく似合う明るい県民性と文化、その背後にある過酷な歴史をあらためて思った
 ◆この硬貨の発行枚数は1億2000万枚。全国民に行き渡りそうな勢いで発行されている。額面も安く「お宝」的な価値はまったく期待できない。それにしても、まだ鋳造したばかりのように美しい。ずっとしまいこまれていたのだろう。それがなぜ今になって流通しているのか
 ◆昭和50年といえば、昭和30~40年代の高度経済成長期から経済安定期へと移り変わる時期。まとまった量の記念貨幣を買った人が、長い不況のこの時代に眠らせておいても仕方がない、市場に回した方が経済貢献になる、と思われたのだろうか
 ◆それは推測だが、確かにお金は「天下の回り物」となってこそ価値がある。使う人が1975年という時代や沖縄に思いを馳せることがあれば、経済と文化の両面で役立っているといえるかもしれない
 ◆しばらく小銭入れに温めていたが、気がつくと消えていた。知らないうちに使ってしまったらしい。37年の歴史を背に、今もどこかを巡っているのだろう。   (里)