クラシック音楽の世界をコミカルに描いた人気漫画「のだめカンタービレ」(二宮知子著、講談社)の映画版がテレビで放映され、原作を全巻持っているので興味深く見た。映画では、原作と違う描き方だが思いがけないほど感動したシーンがあった◆自分を取り巻く境遇が一変し、進むべき道を見失ったピアニストの主人公が不思議な音をききつけてアパートの上階へ行くと、作曲科の女子学生が電子楽器と世界中から集めた打楽器で曲を作っていた。手作りの打楽器を叩いてみて、音の響きの面白さ、リズムの楽しさを実感する主人公。何もかも見失いゼロになった状態だったが、自分の手で楽器を叩き響きを感じるという一番素朴な演奏方法で初めて音に出会った時のような感動をつかみ、そこから音楽への思いを取り戻す。少女漫画の巨匠萩尾望都の作品に、女性演奏家が楽器の弦をはじいてみせ「耳にもひふにも快いでしょう。こんな簡単なことから音楽は始まるの」と言う場面があったのを思い出した◆幼少時ピアノを習えという母親に逆らい、音楽の授業以外クラシックとの接点もあまりなく育った。オーケストラ公演の取材でベートーベンの交響曲第7番に心揺さぶられたのが、クラシック音楽の魅力に開眼した始まりだった。「のだめ」のテーマ曲は、その交響曲第7番。「英雄」等のような表題がなく知名度は低かったが、この作品に使われてから一般に知られるようになったという。ベートーベンの9つの交響曲の中でも最もリズミカルな曲だ◆劇中の登場曲については、作曲家の当時の状況など背景が紹介される。曲にも一つ一つ物語があると分かる。音楽も物語も、人によって紡がれた作品は人の心を癒やし、力を与えることができる。
       (里)