御坊市民文化会館で行われた2023年度第3回市民教養講座を取材。フリーアナウンサーの笠井信輔さんが「生きる力」をテーマに語った◆フジテレビ時代、朝の番組に出演していた時のエピソードを「毎朝、未明に出社。一度は背広と間違えて中学生の息子の制服を着て出社してしまい、着替えに帰ったので遅刻した」など面白く披露。そのフランクな口調のまま、「死を覚悟した経験」について語り始められた。それは血液のがんといわれる、悪性リンパ腫ステージ4との診断を受けた時のこと◆フリーになって2カ月後で、「なぜ今」との思いを抱いたという。治療のつらさ、コロナ禍が重なったことによる壮絶な孤独感など、経験者でなければ語れない内容がストレートに披瀝された。しかし笠井さんは、がんが体から消える「完全寛解」にまで回復。完治というわけではなく定期的に経過を見る必要はあるとのことだが、元気にお話されている姿は、「ステージ4から回復した実例」として多くの人に勇気を与えるだろうと思われる◆特に重要なこととして主張されたのが、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の向上。ただ生きているという状態ではなく、「喜びをもって生きる」ことを大切にする。そのため、今という時代を生きる人に欠かせないのがSNSだという。「体験した本人でなければわからない」という入院中の孤独感を救ったのが、オンラインによる家族や仲間の励まし、さまざまな動画を見ることだった。社会や他者と確かに「つながっている」という実感こそが、勇気を掻き立ててくれる◆「備えてください」と聴衆に語りかけられた。必要以上に恐れず適正に向き合うことの重要性を、そのフランクな口調が物語っているようだった。(里)