1972年9月、ミュンヘン五輪開催中の選手宿舎がパレスチナのテロ集団に襲われ、イスラエル選手団の2人が殺害、9人が拉致された。地元警察が交渉に当たるも失敗、空港で銃撃戦となり、イスラエル人11人全員が死亡する最悪の結末となった。

 イスラエルのゴルダ首相(女性)はすぐさま側近と軍、諜報組織(モサド)の幹部を集め、「彼ら(パレスチナ)が我々と共存したくないなら、我々も共存する義務はない。いまは平和を忘れ、我々の強さを示さねばならない」と、特殊作戦の開始を指示した。

 「神の怒り作戦」というコードネームがついたその任務は、爆弾、現場処理などのスペシャリストが集められ、ヨーロッパ各地に散らばる五輪事件の首謀者を1人ずつ見つけ、殺害していく報復。方法はできるだけ敵に恐怖心を与えるため、派手な爆殺が求められた。

 ユダヤ系米国人の映画監督スティーブン・スピルバーグは、この報復作戦のリーダーへの取材を基に書かれたノンフィクションを原作とし、五輪テロ事件と報復作戦を描く映画「ミュンヘン」を完成させた。

 ガザ地区を支配するハマスによるイスラエル攻撃から約2カ月が過ぎた。わずか数日の休戦・延長も、イスラエルは期間が過ぎれば再攻撃を加えると主張しており、もはや米国でさえ圧倒的かつ無差別なイスラエルを止めることはできない。

 ゴルダ首相が決断した作戦は、ターゲットの人数が被害者と同じ11人(同害報復)で、一般人を巻き込まないというのがルールだった。国家と国家、国家と自治区、国家とテロ組織…戦いの構図は見る人によって違えど、この50年で互いの敵への怒りは神をも超えるほど強くなった。国際社会の分断は終わりが見えない。(静)