表千家御坊松蔭会のお茶会を取材した。コロナ禍のため4年ぶりの開催。今回は、長年会員だった故上西好子さんを偲ぶ茶会となった◆大事に育てておられた花ショウブの紹介など何度か取材させていただいたことがあった。お話が面白く、生き生きした話しぶりにいつも引き込まれた。待合の献茶が捧げられた遺影のほほえむお姿に、懐かしい思いを抱いた。待合に掲げられた掛け軸は山肌の青が美しい、青木大乗「霊峰富士」。茶席ではそれに合わせて、「飛雲」という銘のお茶が供された。茶碗の銘は「おとずれ」。茶杓は、今年が卯年であることと当日の夜が十五夜に当たることにちなみ、兎をかたどったものが用いられた。花活けには追悼の意味を込め、経筒が使われた◆茶席は「一期一会」の心で、居合わせる人々と共にひとときを楽しむ場。今回はそれに加え、故人の思い出をかみしめる場でもあり、味わいの深い秋の一日となった◆かつて本紙に連載のあった女性の皆さんで故人となられた方々がおり、折に触れ思い出す。「お洒落」をキーワードに素敵な生き方を教えてくださったカラーアナリストの蒲原牧子さん。里山の自然を守ることに力を尽くされた環境ボランティアの北野久美子さん。本紙での連載はなかったが、絵本など多彩な仕事を遺されたイラストレーターのかりやぞののり子さん。そして先日他界された「車いすの元気配達人」栁岡克子さん。お一人お一人、それぞれに思い出は尽きない。教えていただいたこと、勇気をもらったことは数多い◆今回使われたお茶席の貴重な道具類は上西さん所蔵の品々。形あるものと同じく、言葉、声音、笑顔など亡き人々の思い出もことあるごとに心によみがえらせ、温めれば共に長く生きていける。   (里)