昨日、紙面の校正を終え、なんとか予定時間内にデータを印刷工程にのせたあと、残った原稿のチェックと自分の記事に追われていたら、立て続けにポケットのスマホが鳴った。

 イライラしながら2件目の画面をみると、先日、オンライン講演の記事を掲載した京都府立医科大学創薬センター長の酒井敏行先生からだった。記事に対するお礼だったが、まさか直接お電話をいただけるとは。

 耐久高校から京都府立医科大・大学院を経て米国ハーバード医科大に留学。帰国後、がん抑制遺伝子の過剰メチル化が原因となる発がんメカニズムを世界で初めて証明し、それまでの医学界の常識を覆した。

 その後、JT(日本たばこ産業)との共同研究でがんの分子標的薬「トラメチニブ」の開発に成功。進行性悪性黒色腫(メラノーマ)を対象に2013年、米国で画期的新薬の「ファースト・イン・クラス」として承認された。

 日本で承認される前のその年の11月、少年時代の酒井先生にバイオリンを指導した由良町の中西忠さんにお口添えをいただき、大学まで押しかけ、取材させてもらったのがもう8年も前になる。

 先の県文化賞記念講演でも話されていたが、がんの特効薬開発を目指したのは、高校時代、弟を骨肉腫で亡くされたことがきっかけ。あの日、墓前で誓った夢は、見事に実現されたのでは。まだ詳しくは教えていただけないが、現在、オール和歌山によるがん予防のプロジェクトが大詰めを迎えているという。

 高校生の質問に答え、地道に努力を続けていれば、その先にはきっといいことがあるとエールを送られていた。筆者もその言葉を信じ、倦まず弛まず、毎日の新聞づくりに頑張ろう。 (静)