開会まで2カ月に迫った「東京オリンピック・パラリンピック2020」。ここへ来て、中止・再延期を求める世論が7、8割にまで高まっているという。しかしそれは本当に当を得た、建設的な議論の上に立って導き出された国民の声なのか、その疑問がどうしても解消されない◆昨年から、東京五輪がどうか無事に、安全に開催されますようにと祈る思いで状況を見ている。海外の観客は受け入れないことに決まり、会場での新型コロナ対策は東京都のポータルサイトを見る限り、全関係者の行動管理・検査体制等、詳細に定められているように見受けられる。さらに不安があるならば、為すべきは「安全な開催実現」への前向きで真摯な検討。問題があるならどうすれば解決できるか、その合理的な検証こそが肝要だろう。実際的な視点で真剣に、具体的に議論を尽くす。最善策を実行する。成功すれば、それは必ずや今後の新型コロナ対策に大きなプラスとなる◆さまざまな意見はあって当然で、それを交わすことで新たな知恵も生まれる。だが現実には、一方の声が大勢を占めると、反対の声が上げにくい空気になる。憂慮されるのは、純粋に競技を愛し、五輪開催へ熱い思いを抱く人が率直な声を上げられない状況にあるのではということ◆世界の舞台で思いきり走り、跳び、泳ぐ選手達。人間の可能性を具現化するような、その姿を見るだけで筆者は生きる活力を得てきた。「それ」があるから生きていける、「それ」があるから頑張れる。人間にはそういうものが確かにある。それは単なる感傷というような、甘い、生やさしいものではない◆スポーツ、音楽、芸術、文学。非常時には「不要不急」に分類されるものかも知れない。しかしそれは時として、人を生かす力を持つ。(里)