白人警官による黒人男性の暴行致死事件を契機とした米国民の抗議行動。報道する側は受け手の食いつき(視聴率)を狙い、映像は警官隊との衝突を切り取りがちで、静かで平和的なデモはあってもあまり報道されない。

 自身の言動で支持率を下げているトランプ大統領が、さらに過激なツイートで話をややこしくする。デモの実態はどうなのか、大統領は人種差別主義者なのか。選挙を前に、人の脳に作用する無数に飛び交う情報兵器が判断力を鈍らせる。

 他方、メディアが報じるべき情報が届かないこともある。美容外科院長の高須克弥氏らが会見、大村愛知県知事の解職請求(リコール)運動を始めると発表したが、なぜそうなったかの核心部分が報道されない。

 昨年の芸術祭あいちトリエンナーレの企画展で、昭和天皇の肖像をバーナーで燃やし、その灰を踏みつける映像が作品として展示された。実行委員会トップとして、このようなイベントに税金を投じた責任を問うているのだが、テレビが伝える展示作品は他の平和の少女像ばかりで、問題が矮小化されている。

 拉致被害者、横田めぐみさんの父滋さんが亡くなり、葬儀後の家族の会見もそうだった。問題を解決できない安倍首相を批判するメディアに対し、家族は「安倍首相、安倍政権が問題ではなく、40年以上何もしてこなかった政治家や、北朝鮮が拉致をするはずがないといってきたメディアがいたから、ここまで安倍首相、安倍政権が苦しんでいる。何もやっていない人が政権批判をするのは卑怯だと思う」と語気を強めたが、多くのメディアはこの拉致被害者家族の心からの叫びを無視した。

 イデオロギーが目の前の事実を抑え込む異常さ。気をつけたい。(静)