由良町阿戸、浄土真宗本願寺派教専寺(永原智行住職)で保管されている、江戸幕府第14代将軍徳川家茂(1846―1866年)が入った風呂おけが今秋、和歌山市立博物館で開催の特別展「幕末の紀州藩」に出展される。町や県などの文化財指定は受けていないが、将軍ゆかりの地を示す証として現存する知る人ぞ知る貴重な歴史的資料。寺から持ち出しての一般公開は初めてとなる。
 徳川御三家紀州藩第13代藩主から徳川第14代将軍になった家茂は、英明な風格を備えており、勝海舟をはじめ幕臣からの信望が厚く、忠誠を集めたと言われている人物。文久4年(元治元年 1864)の1月6・7日、参与会議が開かれる京都市の二条城に軍艦「翔鶴丸」で向かう途中、由良町の教専寺で休息。漢方薬の朝鮮人参を入れた風呂が用意され、その際のおけがいまも残っている。大きさは直径70㌢、深さ60㌢。おけの底板には「江南山宝物 元治元 甲子 初春 正月七日 7ツ時比 上様御浴場 被遊候」と、日時や将軍が風呂おけを使用したことを示す記録もある。また、おけは将軍用に「日高の地」で作られたとの文献が残されている。同寺の19代目となる永原住職によると、将軍が来た時の住職は15代目で、当時は漢方薬も作っていた。
 和歌山市立博物館では、特別展「幕末の紀州藩」を開催するにあたり、家茂将軍らの関連資料を探しており、当初、教専寺では家茂が由良に立ち寄ったことが記されている同寺の古文書を借りる予定だったが、学芸員が調査に入り、風呂おけがあることも知ってびっくり。将軍ゆかりの貴重な歴史資料として、風呂おけの出展をオファーしたところ、同寺が快諾した。この古文書も貴重な品で、将軍が来た際に「お供が2人」との記述もあり、このうち1人は勝海舟だと伝えられている。
 特別展は、10月21日から11月26日まで。入館料500円。幕末の紀州藩に関する約130点を出展する。永原住職は「これまで地元でも一部の人にしか知られていなかった将軍用の風呂おけが、ようやく世に出される。代々の住職が守ってくれた宝物が、私の代でお披露目できることは、この上ない喜び」と話している。