日高町小浦出身、仏像を制作する仏師で浄土宗僧侶の前田昌宏さん(42)=京都市=が、仏教の聖地、インドのブッダガヤにある「仏心寺」に奉納する仏像づくりに励んでいる。仏心寺は現地の子どもたちの教育支援や日印の交流推進などの事業を展開しており、前田さんは自らの技術を生かしたボランティア活動で10年以上もの間、運営を支援中。現在は自身2体目の奉納となる文殊菩薩像の彫刻が大詰めで、今夏の開眼法要へ「両国の交流のお役に立てれば」との思いを込めて作業に打ち込んでいる。
 小浦の浄土宗浄土院住職・前田智教さん(67)の長男。日高中2年のとき、浄土院にまつられていた薬師如来像が盗まれるという事件に遭遇した。その像は戻ってくることはなく、「自分の手で仏様を彫り、元の状態に安置できないものか」と仏師の道を志した。高野山高に進学後、偶然にも仏師の美術講師に出会い、3年間学校近くの工房へ通い詰めた。仏教大在学中も僧侶の資格を取得する勉強、修行をしながら彫刻刀を握り、卒業後はドライバーの仕事をする傍ら腕を磨いた。30歳ごろから正式に仏師として活動を始め、いまは仏像の制作、販売、修復、彫刻教室の講師などを行っている。
 仏心寺はインド北部のビハール州ガヤ区にあり、平成13年に日本の人たちの寄進で建立。インド政府から正式な許可を受け、現地の子どもたちの教育支援、世界中の修行をしたい人たちへの宿泊場所提供や日印の交流を深めるための施設として利用されている。前田さんは建立前年に京都市の知恩院で開催されたポストカード原画展で仏心寺建立発起人と出会い、自身の制作した仏像を見せたところ、「ぜひ本尊を作ってほしい」と依頼を受けたのが「仏心寺とのご縁」。ヒバを材料にガンダーラ様式の釈迦座像を1年がかりで完成させ、同15年に「平和、平等、自由、交流」の願いを込めて無事開眼法要を営んだ。
 本尊奉納後も傷んだ仏像の修復や本尊後ろに飾られる光背作りを担当するなど管理責任者として仏心寺の運営を支援。昨年6月からは本尊の両脇に安置される仏像(両脇侍=りょうわきじ)の1体、文殊菩薩像の彫刻に取りかかった。文殊菩薩像はヒバを材料にした高さ約80㌢の座像で、頭と胴、両腕など6パーツに分けて制作が進められ、いま約7割の進捗状況。高さ約60㌢の台座も仕上げたあと、ことし8月25日からインドを訪れ、開眼法要を営む計画だ。
 一連の仏像制作は、来年夏に予定している3体目の普賢菩薩像奉納まで続けられる。普賢菩薩像は文殊菩薩像が出来上がりしだい彫刻をスタートさせるが、「世界の人たちが交流する場所に仏像を納めさせてもらえるのは本当にありがたい。これも仏様のお導き。この活動が日印交流のお役に立てれば」と仕事の合間を縫ってのボランティアにもやる気をみなぎらせている。
 前田さんは、両仏像の奉納へ広く一般にも協力を呼びかけている。用紙に描かれた菩薩像をペンや筆でなぞる「写仏」を行い、願い事なども記したうえで返送すれば、制作中の仏像の体内に納めてもらえる。1枚1000円の費用で、浄財は仏心寺の運営にも活用される。写仏の問い合わせは兵庫県豊岡市の浄土宗来迎寺内「インド仏心寺を支援する会」事務局℡0796222226。