「てんでんこ」は、東北に伝わる津波避難の心得。津波から逃げる際は例えば職場や学校などに散らばっている家族が、それぞればらばらに避難所を目指すことである。かつて子どもを探しにいった母親が津波の被害に遭ったことを教訓にしている。てんでんこが実践されるためには、家族が互いに「きちんと逃げているはずだ」と考えられる信頼関係が必要。日ごろからの話し合いや訓練などを重ねることで、そういった信頼や避難への意識が高まると考えられる。去る25日の御坊市防災講演会では〝釜石の奇跡〟の立役者である群馬大学大学院理工学府の片田敏孝さんも「てんでんこ」の大切さを訴えていた。
 一方で片田さんは「本当に人としててんでんこができるのか」という難しい問題も指摘していた。確かに歩いてすぐの場所に自分の子どもがいる場合は、姿を見つけにいってしまうのではないか。また、家族や大切な人ががれきで埋まっていたら助けにいくのではないか。しかし、その時間が命取りになる恐れもある。片田さんも娘がいるそうで、「もし娘ががれきに埋まっていたら助けにいって私も死ぬかもしれない」と漏らしていた。
 この人のさだめのような問題はどうすればよいか。筆者は「てんでんこ」をもちろん優先すべきだと思う。ただ、その時々でケースバイケースの対応も必要。もちろん、だれかを探しにいったり、助けにいったりする場合は、自分の命を落とすリスクが少ない的確なケースバイケースの対応でなければならない。難しい話だが、そのためには日ごろから訓練を重ね、どう対応するのが最善なのかの判断材料をたくさん身につけておくことが重要だろう。(吉)