水素で走るFCV(燃料電池車)。昨年末、トヨタが世界初の市販車「MIRAI」を発売し、5680件もの関連特許を無償で提供するという。まさに「損して得とれ」。独占技術を公開してFCVの市場成長を促すことで、後発の次世代自動車として、先行するHV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)に追いつく戦略だ。
 4年前、マツダが従来の自社カーの平均燃費を30%向上させる驚異のエンジン「スカイアクティブ」を開発した。NHKの番組でも紹介されていたが、逆転の発想が革新的アイデアを生み、1.3㍑のガソリン車ながらHV並みの低燃費を実現したという。技術者たちの不屈の精神が常識の壁を打ち破った。
 日本で低燃費といえばHVが主流だが、ヨーロッパでは排気量を小さくし、その力不足を補うためにターボチャージャーと組み合わせる「ダウンサイジングターボ」がトレンド。低燃費と加速性能を両立するこのエンジンは、1.2㍑エンジンで2.0㍑クラス、2.0㍑エンジンで3.0㍑クラスのパワーを出すといわれる。
 しかし、このガソリン車のダウンサイジングターボも、欧州メーカーが日本のHV技術に追いつけなかった結果との見方もある。かつて、HVでトップを走った日本のメーカーが特許を囲い込んだため、海外メーカーは参入を見送ってしまい、その結果、世界市場全体のHV占有率はかなり低くなってしまったという。EVでも同じように、日本のメーカーが高性能の充電器を開発しながら、規格競争で勝ち組になれなかった。
 トヨタのFCV特許公開は、こうした過去の苦い経験も背景にある。ものづくりニッポンのメーカーが競い合い、FCVフロンティアの勝者になると信じたい。   (静)