「まだ発見されていない未知の粒子が存在し、それがエネルギーを持ち去ったに違いない」。中性子の質量が、中性子を構成する陽子と電子の質量、エネルギーの合計より大きいという結果に対し、「エネルギー保存則が破れた」と大騒ぎの科学者の中で、ただ1人、その基本法則に立ったという物理学者パウリの言葉。存在しない「何か」があるといいきる常識外れの発想ではあるが、これがのちの素粒子、ニュートリノの発見につながった。
 もっと有名な話では、アインシュタインが予言した重力による空間の歪みもそう。太陽のような超巨大な物質の周囲の空間は、その強力な重力によってゆがめられ、背後からの星の光もそのゆがんだ空間に沿って進むという理論。つまり、地球から見て太陽の裏側にある見えないはずの星が見えるという話で、これもまた発表から3年後、太陽が暗くなる皆既日食の際の観測で実証された。
 日本が世界をリードする素粒子物理学、放射線医療の世界では、重粒子線治療が話題.X線を照射する従来の放射線とは違い、表面の皮膚やがんに届くまでの途中の健康な細胞に与えるダメージが小さく、体の奥のがん細胞に当たる瞬間に最大の破壊力を発揮。位置と距離を正確に測定することで、がんだけを最大のパワーで狙い撃ちにすることができる。
 STAP細胞の小保方さんが、同細胞の有無を確かめる検証実験に参加することが決まった。「STAP細胞はあります」という彼女の涙ながらの訴えも、現時点では一研究者の仮説だが、スタートラインとしてはパウリやアインシュタインと同じ。誤りは認め、修正を繰り返し、いつか実験で証明、再現性を得て、いまは「ない」ものが「ある」世の中に変えてほしい。   (静)