いまさらながら、巨大地震に備えて津波避難訓練などソフト面での対策が必要なのは言うまでもないが、防波堤や水門などハード面の整備もあるに越したことはない。南海トラフの巨大地震が来た場合でも避難時間を稼ぐなど一定の効果が期待できるとされるからである。しかし、問題は財源だ。
 本紙本日付の社会面でも紹介しているが、4市町津波防災研究会が下津港海岸海南地区で行った直立浮上式防波堤の視察研修に同行した。海南市役所に予定より早く着いたため、国土交通省備局和歌山港湾事務所の職員が到着するまで神出政巳市長があいさつを兼ねて事業を説明。そこで面白い話があった。浮上式防波堤など津波対策の総事業費は250億円だが、国の直轄事業となっているため負担は国と県だけ。当初、県と海南市が6分の1ずつ負担する話だったが、「国の直轄事業なので市に負担させるわけにはいかない」ということで海南市の負担がゼロになった。これは大変うらやましい話だと思ったが、実は続きがある。
 本来、県がしなければならないプレジャーボート係留地の整備を海南市が肩代わりすることで話をつけているという。ちなみに予算は10億円。津波対策で6分の1負担していたとすれば約40億円必要だった。こんなのを行政取引と言うのか分からないが、とにかくお得な話。ただ、お得だといっても、海南市は津波対策をするために身銭を切っていることになる。つまり国や県に頼ってばかりではダメ。もちろん、今後、国の地震関連法案の成立で予算を大いに期待するところだが、地元自治体は多少なりとも身銭を切る覚悟で津波のハード対策にも力を入れてほしい。  (吉)