東日本大震災以降、「津波てんでんこ」という言葉をよく耳にする。三陸地方に伝わる津波避難の教え。例えば家族が別々の場所にいるときに地震が発生したとしても、互いに安否を気遣って捜しあうようなことはせず、まずそれぞれがてんでばらばらに高台へ避難せよということ。もし捜しにいけば、その間に津波が襲来し、本来助かる命も助からないというわけだ。
 そんなことを今月9日、4市町津波防災研究会の講演会で和高専の小池信昭准教授が、岩手県の「釜石の奇跡」の立役者である群馬大学の片田敏孝教授の言葉として紹介していた。釜石の奇跡では小中学生のほとんどが津波てんでんこの教えを守り、命が助かった。では津波てんでんこを実現するためにはどうすればいいのか。まず、家族や地域間であらかじめ地震が発生したらどこの高台に逃げるのかを話し合っておくこと。合流、安否確認はその高台で顔を合わせたとき。小さい子を持つ親ならかなり心配になるかもしれないが、そこは自分の子を、その地域の人々の助けを『信頼』するということ。繰り返しになるが、その信頼を持つためには、やはりあらかじめ事前の話し合いや家庭、学校、職場などいろいろな場面で防災訓練を積み重ねておくことが必要だろう。
 また、それらを補うのが行政の役割。防災訓練の推進、防災意識の向上は当然だが、地域住民とともに避難ルートを検証して、どうしても時間内に避難できない地域や、避難が難しい人がいるところには津波タワーを整備したり、住居の高台移転を支援したり。津波避難はてんでんこだが、地域住民や行政の事前防災の対策が総合的につながってこそ、被害を最小限に食い止められるのだと、あらためて感じた。 (吉)