秋は収穫の季節。果実や穀物が熟するにもある程度の時間が必要なように、考えを深めて答えを出すにもそれなりの時間を要する。それを実感したのが御坊市等主催のシンポジウム「有間と宮子」の取材だった。
 基調講演講師の森浩一氏は退院後すぐ家にも帰らず来坊されたという。その熱意には頭が下がる。岩内1号墳の出土品を初めて目にした時の驚き、大化の改新の立役者は中大兄皇子ではなく有間皇子の父孝徳天皇ではないかとの説などあらためて古代史を深く学びたくなる話だった。
 シンポジウムではパネリストとして駒木敏同志社大教授、高山由紀子監督と交互に語られた。しかしコーディネーター松平定知さんの冒頭の言葉「悲しいかな、絶望的に時間が短いですね」が物語るように、これだけのテーマを3人で語るのに60分は少なすぎたようだ。有間と宮子について語られたあと道成寺のある地点と岩内古墳との位置関係についても示唆されたが、そこで残り数十秒。重要なポイントではなかったかもしれないが、参加者としての正直な感想を言うなら、ゴールを示されながら心ならずも砂漠に不時着してしまったという感があった。
 一般の参加者には、もっと目指すべき論の行方が明示されていた方がイメージしやすかったのではないだろうか。ファンである松平さんの司会ぶりを目の当たりにできたのは個人的に収穫だったし、個々の論は興味深かったが、全体的に消化不良の印象は否めない。
 有間皇子、宮子姫から御坊の古代史を考え、地域に新たな物語を創るという視点は有意義であり、これから進める価値はあると思う。今回の内容についてはさらに勉強し、深くじっくり考えてからまた書いてみたい。    (里)