県立医科大付属病院は近く、泌尿器や消化器系のがん治療のレベルアップへ、最新のロボット支援手術システム「ダヴィンチ」を導入する。開腹せず内視鏡等を挿入して行う腹腔鏡手術の進化型で、医師はモニターを見ながら指先に装着したコントローラーを動かし、患者の体内の鉗子(かんし)を遠隔操作。細かな血管や神経に電気メスが届き、アーム先端の鉗子が人の手や指では不可能な動きをみせる。
 まるでSF映画のイメージだが、県立医大は整形外科分野でも椎間板ヘルニアなどの脊椎内視鏡手術で日本の医療のリードしている。従来は不可能といわれた80代以上の高齢者も安全に手術でき、傷跡が小さく、筋肉も傷つけないため回復が早く、吉田宗人教授は「麻酔ができる人なら100歳でも可能」と胸を張る。
 がん治療に威力が期待されるロボット支援手術も、元は軍事面での研究がスタート。反戦世論を抑えたいアメリカ政府は兵士の戦死をなくすため、無人の偵察機や戦闘機を開発し、その延長で現在は衛星を経由してアメリカ本土で操作し、何万㌔も離れた外国のテロリストを攻撃できるようになった。ダヴィンチも、異国で傷ついた兵士を遠隔治療する目的で開発されたという。
 そういう意味では、昭和の日本軍は兵士や国民の命をまったく考えていなかったが、人類史を振り返ると、戦争のたびに医療と科学技術が進化してきたのも事実。GPSやインターネット、原発はいうに及ばず、ホッチキス、殺虫剤、レトルト食品なども軍事利用の転用。いま、私たちの快適な生活は、命を奪うための研究によってもたらされたものも少なくない。   (静)