プロのアスリートが一流になるための最大の必要条件は「強さ」であり、歌手は歌のうまさ、お笑い芸人は発想のおもしろさ、俳優は演技力、寿司職人はネタの目利きと握りの腕。いずれもそれがなければ金を稼げない。

 しかし、どんな世界、職業においても、強さやうまさ、おもしろさだけでは生き残れない。先日、大相撲の世界で将来を期待された22歳の力士が、部屋の後輩にひどいいじめを繰り返していたことが発覚し、あっさり引退してしまった。

 師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)と並んで頭を下げた謝罪会見の数日前、日本相撲協会は外国人向けのYouTubeチャンネルで、新しくできた音羽山部屋の朝稽古の様子などを紹介。親方の元横綱鶴竜がインタビューで弟子の指導論を語っている。

 角界全体で新弟子が減少している現状には、「アマチュアタイトルを持っている子だけでなく、相撲が好きで小さいころからやっている子が挑戦したい気持ちになってほしい」といい、親が心配な力士として芽が出なかった場合のバックアップも改善の必要があるという。

 弟子については「ただ強くなればいいというのではなく、人間として成長させないといけない。掃除や洗濯、料理ができるようになり、人とのコミュニケーション、人を立てること、サポートすることも覚えながら強くならねばならない」。

 どちらの考えも指導者として至極当たり前だが、同じモンゴル出身力士で、強さの点では史上最強を誇った宮城野親方の今回の問題を受けて、言葉の一つひとつが重く、説得力が際立つ。

 10日からは春場所が始まる。成長著しい若手も多いが、ファンは当然、ただ強いだけの力士にならないことを願っている。(静)