1963年に放映開始、今年で60年の節目となったNHK大河ドラマ。「どうする家康」を毎週見ているが、19日放映の第44回は内容もさることながら、テーマ曲とオープニング映像に感動させてもらった◆実は、開始当初は本作のオープニングが気に入っていなかった。ドラマチックなコーラスが勇ましかった前作に比べ、ピアノとオーケストラの優しいメロディー、淡い色調のアニメーションの今作は「戦国が舞台なのに優雅すぎる」と物足りなく感じた◆ところが、話が進むに連れて映像は変化。5月、家康最大の危機といわれる三方ヶ原の戦い以降は黒・金・赤を基調とした重厚なイメージに。そして9月からの第3弾は華やかな彩りと躍動的な動きで波がうねって渦を巻き、その中心から江戸の街や民、輝く富士の山が現れる。家康が理想とした平和な世の視覚化である◆家康という人物は10代で桶狭間を体験。知恵と忍耐力で乱世を生き抜き、大坂の陣によって自らの手で戦国の世に終止符を打った。一連のオープニング映像は波乱に満ちた生涯の変遷を表していたと知ると、物足りなかった当初の映像も、青年期の伸びやかさの表現が好ましく思われた◆第44回「徳川幕府誕生」のオープニング映像とテーマ曲はこの回限り。フルピアノバージョンで、作曲家でピアニストの稲本響氏自身が4台のピアノを使ってオーケストラのすべてのパートを演奏。映像は、水墨画風に描かれた重なる山並み。映像作家の菱川勢一氏が、苦難を乗り越え平和な世を目指した家康の胸中を表現したという◆テーマ曲の題は「暁の空」。260年に及ぶ、戦乱なき時代の夜明けを到来させた男を描くドラマにふさわしい。現在の世界状況をみるにつけ、その偉業が強く胸に迫る気がする。(里)