大人気アニメ「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎の生業は炭焼き職人で、非常に鼻が利くという設定になっている。実は、炭焼き職人にとって鼻が利くことは大事なのだと、先日、清川の炭焼き職人の原正昭さんに教えてもらった。炭窯で焼き出すと、外からは今どんな状態か見えないが、職人はにおいで分かる。炭治郎が鼻が利くという設定は大正解だといわれていた。炭焼き職人ならではの視点がユニークだった。

 中高生が世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」を学ぶオンラインカフェで講師を務め、紀州備長炭の歴史や特徴を非常に分かりやすく説明されていた。1300年前に弘法大師が中国から技術を持ち帰り、先人たちが改良を重ねて江戸時代には今の技術が確立された。中でも受け継がれているのが「はね木」と呼ばれる技術。窯出しして1~2時間後、まだ窯の温度が500度ほどあるうちに次の原木を窯に入れる。丸太のような形の短い木と、棒を使って窯の中へ原木を立てていく技術。昔から「いい炭は余熱を利用して焼け」と教えられてきたという。ただ、この技術を使う人も少なくなっているのが現状という。

 もう一つ、炭焼きの大切な仕事が山づくり。山から原木を切り出すことから始まる。紀州の先人は江戸時代から、若い原木を残して切る「択伐」を始めた。根こそぎ切る「皆伐」だと再び木が生育するまで約40年、択伐なら15年ほどで循環利用できるという。択伐ができて200年、おかげで今も枯渇せずに残っていると感謝していた。連綿と受け継がれる技術と知恵に触れ、紀州備長炭を見る目が変わった。デジタルな時代になっても、変わらぬ日本が誇る伝統技術は身近にある。(片)