友人の高校生の子どもの話。学校の文理選択で文系を選んだその子は、そろそろ自分が目指す大学、学部を決めなければならない時期だが、自分が何に向いているのか、本当に何をしたいのかが分からず、迷っているのだという。

 周りの友達は、将来の目標を持って受験する学部を決めている子もいるが、多くは自分と同様、まだ具体的なビジョンを描けていない。いまの時点で目標を決めている子とそうでない子とでは、勉強の仕方にも違いが出てくるように思える。

 リチウムイオン電池を開発した旭化成の吉野彰名誉フェローが、ノーベル化学賞を受賞することが決まった。東大阪出身の山中伸弥京大教授、京都生まれの本庶佑京大特別教授らに続き、吹田市出身の吉野氏の受賞が同じ関西人としても嬉しい。

 吉野氏は小学生のころ、大学で化学を学んだ新任の女性の先生に化学の不思議さを教えられた。先生は好奇心旺盛な吉野少年に英国の科学者が書いた「ロウソクの科学」という本を勧め、吉野氏はその本が科学者への入り口になったそうだ。

 音楽やスポーツ、芸能でも、偉業を達成する人の多くは子どものころからモノが違う。親や先生が何をいおうと、自分にはこれしかないという思いで一心に打ち込んできた結果の「現在」なのだろう。

 高校生にとって進路はいろいろあるが、もし受験や就活が思い通りにいかなかったとしても、その結果に友達との違いはあれど、勝ち負けはない。大切なのは自分の理想に一歩でも近づくため、自分のために勉強、努力することである。

 科学が好きな少年がそのまま大きくなったような吉野氏。会見でのとびっきりの笑顔に、そんな幸せな生き方が見える。(静)