平成23年9月3日から4日未明にかけて死者3人、行方不明者1人、家屋の全半壊120軒など日高川町に大きな被害をもたらした台風12号豪雨から3年が経つ。広島市で発生した土砂災害への対策に関心が高まるなか、日高川町では砂防ダム建設をはじめとする土砂災害防止への取り組みが急ピッチで進められている。台風12号ではこれらの対策が被害の拡大をとどめたとみられ、住民からは〝背中からの被害〟を防ぐ取り組みへの期待は大きい。
 土砂災害が起きた広島市では災害個所の多くは警戒区域に指定されておらず、災害個所には流れてきた土砂をせき止める砂防ダムは建設されていなかった。各都道府県では、土砂災害の危険がある区域を「警戒区域」、特に危険なところを「特別警戒区域」に指定。山間部の日高川町には894の土砂災害危険個所(土石流渓流272カ所、急傾斜地崩壊603カ所、地すべり19カ所)があり、警戒区域に286カ所(土石流渓流97カ所、急傾斜地崩壊184カ所、地すべり5カ所)が指定。さらに警戒区域のうち土石流が心配される82カ所が特別警戒区域に定められている。
 日高川町では、弥谷集落で85人が命を落とした大規模な山崩れなど土砂災害が多発した昭和28年の7・18水害を教訓に、住民は地元自治体に強く土砂災害対策を要望してきた。かねて土石流が心配される地域では砂防ダムの建設が相次ぎ、崩土が懸念されるところでは山ののり面を舗装したり、山の裾に擁壁を設置するなど急傾斜事業に力が入れられてきた。現在、砂防ダムはすでに42地区で完成。清水谷川がある山野、瀧の谷川の三十井川、加門谷川の阿田木など11地区で建設が進む。
 3年前の台風12号豪雨の被害はほとんどが日高川など河川の氾濫が原因。崩土も100カ所以上で発生し道路が寸断されるなどしたが、崩土による住宅被害は土砂が流れ込むなどしたわずか数軒にとどまり、人的被害はなかった。船津の砂防ダムでは多くの土砂をせき止め集落への流出を防ぐなど威力を発揮。7・18水害のような被害は起こさせなかった。
 阿田木の加門谷川で建設が進む砂防ダムは平成21年に着工。事業費4億円で27年度内の完成を目指している。7・18水害ではこの谷川が土石流を引き起こし、数件の民家が押しつぶされ、その後も大雨のたびに住民に不安を与えてきたが、台風12号豪雨では本体の一部が完成していたため土石流を防いだ。区長の加門眞悟さん(63)は「昔から危険と伝えられている谷川だけにダム建設は念願。ダムがなかったら12号豪雨ではどうなっていたことか。早く完成してほしい」と期待を寄せる。現在、日高川町では7地区の8カ所でも建設が要望されている。
 ただ、土砂災害対策には、警戒区域の指定に数年かかり、砂防ダム建設には完成まで約5年、事業費が億単位に上るなど課題も多い。平野部が少なく日高川から山々にかけて集落を形成する日高川町にとっては、河川氾濫に加え山も崩壊すれば、前からも背中からも挟み撃ちとなるだけに、取り組みが進んでいるとはいえ、対策は急務の状況だ。県ではすみやかに警戒区域を指定して住民に周知を呼びかけるとともに自治体の協力のもと、ソフト、ハード両面での対策を強めていくことにしている。
 日高地方には、2821の土砂災害危険個所があり、このうち警戒区域に836カ所(土石流渓流265カ所、急傾斜地崩壊560カ所、地すべり11カ所)が指定されている。先月上旬にも、台風11号で由良町の国道42号由良トンネル入口付近で大規模な山崩れが起きたばかり。より一層の対策強化が求められている。