本紙3面で、24日付から新連載小説がスタートした。秋山香乃著「吉田松陰 大和燦々」、幕末が舞台の時代小説である
 黒船来航から明治政府樹立までわずか15年の短く激しい変革期、幕末。この時代に心ひかれる歴史愛好家は多い。松陰は国を動かした長州の志士らの師で、肖像画は50歳以下には見えないが実は享年28歳。アメリカへ密航を企てて囚われ、謹慎中に松下村塾で若者達を教える。裁きの場で国を憂える真情を語り、クーデター計画まで堂々と披露して死罪になった
 獄中で奇跡的な教育を行った逸話がある。松陰の発案で、囚人が順に講師を務め学び合う。俳句の得意な者は俳句を、歴史の好きな者は歴史を講義。誰に対しても松陰は美点を見いだし、丁寧な言葉遣いで接した。自分を認められると人は奮起する。松陰は囚人らに非常に慕われ、獄吏までが彼の生徒として学んだ
 辞世の歌「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留めおかまし大和魂」はあまりにも有名だ。密航に失敗した時は「かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂」と詠んでいる。家族への辞世は「親思う心に勝る親心今日のおとづれ何と聞くらむ」。思想に殉ずる峻厳さだけでなく人を思いやる温かい心があったからこそ、若者の心に師の面影は深く刻まれ、命を賭けてその遺志を果たそうとしたのだろう
 経済も文化も行き詰まって外圧が高まり、現代にも似ていた江戸後期日本。その状況を打破し、国家体制の新旧交代を成し遂げた明治維新に学ぶべき点は多い。連載では若き日の松陰が描かれる。新たな松陰像がどう立ち上がってくるか。今の世への道標となるか。一読者の目で楽しみに読み進めたい。(里)