新宮市で6日、神倉神社のお灯まつりが行われる。2000人もの白装束の上り子が松明に神火を受け、急な538段の石段を駆け下りる奇祭。当日は女性の入山は禁じられ、男はだれでも参加できるという。一度参加したいと思いつつ、ことしもまたニュースを見るだけに終わりそう。
 お灯まつりといえば、辻原登の名作『許されざる者』。森宮(新宮)という海に面した箱庭のようなまちを舞台に、主人公の赤ひげ医師、ドクトル槇と美しい人妻、永野夫人との「許されざる」恋。勇壮な火祭りの夜、松明を手に駆け下りる男たちを取り囲む群衆の中で、互いの人差し指が触れ合う永遠の刹那。少し酒の入った仁坂知事とこの話で盛り上がり、おっさん同士、指先を触れ合ったのはちょっと気持ちが悪かった。
 
 民俗学者、松原右樹氏の遺稿『熊野の神々の風景』によると、上り子たちは祭りの朝、熊野灘の浜で禊をし、全身白一色の装束で、腰には荒縄を三回、五回、七回のいずれかの奇数で巻き、松明を持って石段を登ってゆく。松原氏は「荒縄を奇数で巻くのは死刑囚や死体であり、日常、藁の帯をするのは禁忌。結界を越えて出て行こうとする上り子の列は、野辺の送りを連想させ、黄泉の国に向かう葬列のようである」という。日本も昔は中韓のように、白は喪の色だったらしい。
 小説でドクトル槇のモデルとなった大石誠之助は、大逆事件に巻き込まれて刑死した。神話の時代から死のケガレに満ちた新宮、熊野は反逆、気骨の風土があり、一方で小栗判官らハンセン病患者や被差別民を受け入れた希望と癒しの土地でもある。同じ和歌山でも私たちの日高とはまるで違い、外国のような印象さえ受ける。(静)