先日、読者の方から前回の連載小説「かんかん橋を渡ったら」(あさのあつこ著)についてお褒めの言葉をいただいた。現在連載している「憎まれ天使」(鏑木蓮著)は「事故とか出てきてこわいのでちょっと読んでいない」とのことだが、これもなかなか面白いのでできれば多くの方に読んでみていただきたい
 ◆有名自動車メーカーの営業職だったが人身事故で幼い女の子を死なせてしまい、会社をやめて妻子と共に京都に移住、染色の仕事をしている男性・寛雄が主人公。隣人の女子大生志穂は就職が決まらず、寛雄の前職場へのコネを狙ってか娘の優奈を通じて接近、無神経に事故のことを探る素振りを見せる。彼女の真意が分からず、振り回されて怒りを覚える寛雄夫婦。だが常識はずれのようでいて真実を突く言葉をぶつけてくる彼女に、夫妻とも状況を見つめ直す心境になっている
 ◆現在は、現場で花を供えていた謎の女性の存在について志穂が核心に迫ろうとしている、というところ。1話ごとに意外な局面が現れ自然と次が楽しみになるという、新聞小説の王道を行く構造だ。「かんかん橋」もそうだが、心理描写が丁寧で的確な作品は感情移入しやすく先を楽しみにさせてくれる。まだ第1章。途中からでも十分入り込める。
 ◆読書の秋である。本も漫画も映画もそうだが、物語を味わう楽しみのベースは「世界が一つではない」と教えてくれること。誰にとっても、現実以外に胸躍らせてくれる世界は無数にある。活字文化である小説に限っていうなら、言葉を通じてイメージを描く力をも与えられる
 ◆一日少しずつ読み進むことで、日常の隣にある別世界に手軽に触れられる新聞小説。ぜひご一読いただきたい。     (里)