論文掲載誌を手に上出さん

 県内河川中流域に生息するイソヒヨドリの食性を研究した結果、日高町高家の生態学者上出貴士さん(51)が、子育て時期にコガネムシを好む食性であることが分かり、論文が野外鳥類学論文集(日本野鳥の会)に掲載された。また、由良町沿岸で脊椎動物と共通の祖先から進化したとされる頭索動物の一種ヒガシナメクジウオの生息についても54年ぶりに生息を確認。論文が生態学・環境生物学論文集(南紀生物同好会)に掲載された。

 上出さんは同町阿尾出身で、日高高校を卒業後、北海道大学で水産学を学び、広島大学大学院で生物圏科学研究科で博士(農学)の学位を取得。現在は県職員の仕事の傍ら、水辺をテーマに幅広い生物研究に取り組み、環境省が実施する干潟調査や鳥類繁殖調査にも参加している。

 身の回りの生き物の生態調査をライフワークとしている上出さんは、自宅近くの西川沿いで3年にわたってイソヒヨドリの食性を研究。イソヒヨドリは海岸に生息し、トカゲやムカデ、フナムシなど多様な生物や果実を食べ、近年は内陸部にも生息場所を広げているが、河川域での調査は行われていなかった。

 上出さんの研究の結果、特に子育て時期の5・6月に採餌行動が多く見られ、全部で22通りの採食行動があり、コガネムシを捕まえる行動が最も多く全体の32%を占め、春に集中していた。河川中流域の堤防でコガネムシを捕まえ子育てしていることが分かり、コンクリート舗装されていない河川堤防にはさまざまな植物が生育、多くの動物が暮らし、身近な生態系の豊かさも示された。その論文が日本野鳥の会が発行する論文集「Strix」第39号に掲載された。

 ヒガシナメクジウオは清浄な砂底に生息し、内湾環境の指標種とされているが、個体数は減少しており、WWF(世界自然保護基金)が稀少・危険、水産庁が危急種、日本ベントス学会が準絶滅危惧種に指定している。由良町沿岸では1968年を最後に生息記録がなく、上出さんが2003年~07年に調査した時も確認できなかったが、昨年6月に由良町衣奈と黒島の間の海域で採取した海底の砂からヒガシナメクジウオ6個体を発見。54年ぶりの確認で、生息密度は1平方㍍あたり267個体と推定され、国内では高水準の分布状況から衣奈沖は清浄な砂底海岸であると考えられるという。これをまとめた論文が南紀生物第65巻第1号に掲載された。

 上出さんは「子どものころから生き物が好きで、身近な生き物でも見えていないことが多く、それに目を向けると研究が進みおもしろくなります。論文が書籍に掲載されると世界や全国の研究者から問い合わせがあり、研究仲間でつながっていきます」と話し、「今は自宅周辺に集まってくる蛾が約550種もあることが分かったので研究しています」と笑顔を見せていた。

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