
今年は宮沢賢治没後90年。今月5日からは、天才作家を父親の目から見た異色作の映画化作品「銀河鉄道の父」が全国で上映されています。原作は以前紹介したので、今回は賢治自身の著作。新潮文庫の「風の又三郎」には表題作含め16篇を収録。あまり知られていない作品が、大変興味深いです。
物語 子ウサギのホモイは川で溺れるヒバリの子を飛び込んで助け、鳥の王から「貝の火」という名の美しい宝珠を贈られる。のぞき込むと炎が揺らめき、さまざまな色の光が走る素晴らしい光景が見える。母は喜び、父は慢心しないよう戒めるが、無邪気だったホモイは動物たちにあがめられだんだん心を変えていく。やがて「貝の火」には一点の曇りが生まれ…。(「貝の火」)
ツェという名のねずみがいた。親切にしてくれた人の落ち度をあげつらっては「まどうて(償って)ください、まどうてください」と迫るので皆に嫌がられ、動物には相手にされず道具とつきあうようになった。やがてネズミ捕り器とつきあいを始めたが…。(「ツェねずみ」)
クンという名のねずみがいた。自尊心が強く、自分に分からない難しい話をされると腹を立てる。話が小難しくなると、わざとらしく「エヘン。エヘン。エイ。エイ」と激しい咳払いを始めるので皆に嫌がられていた。やがて猫の大将につかまり、子猫の家庭教師をすることになったが…。(「クンねずみ」)
小さな村の小学校に、赤い髪の転校生がやってきた。名前は三郎。9月1日、二百十日の日に激しい風とともに来たので、子どもらは、伝説の「風の又三郎」だ、とうわさし合う。標準語を使い都会的な雰囲気を持つが、村の子どもらと山で馬を追う遊びをした時、囲いの隙間から逃げてしまった馬を、嵐のなか険しい山に入って連れ戻す。嘉助は三郎と一緒にいて遭難しかけ、昏倒するが、意識を失う直前にガラスのマントをひらめかせて宙に舞い上がる三郎を見たように思った…。(「風の又三郎」)
子どもの時、家には3冊の宮沢賢治作品集がありましたが、それとは別に小学校の図書室で「貝の火」を読みました。美しい文章、描き出される貝の火の美しさにもかかわらず、非常に怖い話として強く印象に残りました。久々に読むとやはり恐ろしく、賢治のすごさを思い知りました。怖いのは因果応報がすぐには来ないこと。悪事が飽和状態になってから、転落は一気に訪れます。その前兆を示す夢がまた怖い。興味深いのは、子ウサギを支える父親の存在。「銀河鉄道の父」を想起させられます。
また本書にはなんともブラックな味わいの作品があり、夢のような美しい世界が宮沢賢治と思っていると意外な一面を見せられます。欲望やなまけ心、他人を見下す自分本位な心など人間の闇の部分が鮮やかに切り取られ、だからこそ、汚れない美しいものを志向する心はより強く輝きます。 (里)


