シーズンは過ぎましたが、4月のテーマは「桜」とします。今週は内田康夫氏の、華道界を舞台とするミステリーです。

 「華の下にて」(内田康夫著、講談社文庫)

 ルポライターの浅見光彦を探偵役とするシリーズ。第100作目。全編に登場する花のうち、桜の部分を紹介します。

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 毎年入学式のころ、ちょうど満開の桜の下を通って学校へ通った記憶がある。空いちめんがピンクに染まった花のトンネルである。降り注ぐ花びらがランドセルにとまるのも楽しかった。(略)ダムが完成し、川がせき止められる寸前、二本の桜だけはなんとか助けようという運動が起こった。(略)桜は老木で、しかも運搬の都合上、枝の先も根の先もほとんど切られてしまっている。はたして桜がこの冬を越えて、根づき、花を咲かせるものかどうか、それが不安だった。(略)下界の桜前線がとっくに北へ行ってしまったころ、御母衣ダムの湖畔に二本の桜が満開の花をつけた。遠く土地を離れていた村人たちは大勢、桜を見ようと帰ってきた。二年前に現場を離れたダム工事の関係者たちも、ひと目、桜の無事を確かめようと訪れた。(略)牧原が華道を貫こうと決意したのは、そのときである。

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