
平成二四年、第一四六回芥川賞を受賞し、八年後に出版したのが本作品である。
スマホもパソコンもなく、高校を出るも就職をせずかつ引き籠りで独身。原稿は手書きをする田中と云う四〇代の作家(著者と思われる)が主人公である。
芥川賞を受賞すると故郷の下関と東京を行き来する日が増えた。そんなある日新宿で二〇代の女性と知り合う。彼女は田中の高校時代に付き合った女性の子供だった。そんな彼女は母の過去を尋ねてきた。田中は逢う日が重なるにつけ親子ほども違う女性に惹かれていく。
芥川賞の受賞会見で記者から「下関はどんな街ですか」と尋ねられ、「乾いた街です」と答えた田中が出版社との打ち合わせで東京に出てきてからの恋であった。
高校時代に付き合った彼女は文学好き。だからよく文学の話をした。しかし彼女には一学年上の彼氏がいた。そのことを尋ねると、「田中君は友達であり森戸(一学年上の人)は彼氏だ」と彼女は答えた。彼女とは芥川龍之介や太宰治、そして三島由紀夫や川端康成の話しをよくした。いずれも自殺した作家達である。彼女は「本当にその作家が好きなら同じ死に方をすべきだ」と言った。
田中が故郷下関で芥川賞受賞記念の講演会をしたときのこと、一学年上の森戸も来ていた。講演終了後、森戸に誘われ公園のベンチで話しをすると、彼女はすでに死んでいることを知らされた。しかも自死である。田中は愕然とした。これは著者の初めての恋愛小説であるが、しかし作家と自殺に関する文学論のようにも私には思える。(秀)


