かつては注意欠陥多動性障害といわれ、現在は注意欠如・多動性障害と訳されるADHD。本書は日本でもベストセラーとなった「スマホ脳」「ストレス脳」などの著者、スウェーデン出身の精神科医アンデシュ・ハンセンによる脳シリーズの最新作です。

 ADHDは、集中力が続かない、じっとしていられない、衝動的でキレやすい――というイメージが一般的ですが、日本ではそんなマイナスイメージが強い特性を「人類の進化の名残かも」という視点から、能力や強みとして考え直すヒントを与えてくれます。

 実際問題、集中力を保てない、すぐに気が散る、そわそわする――などといった特徴は誰にも多少当てはまる傾向で、それがグラデーションの濃い人もいれば、薄い人、真ん中ぐらいの人もいます。つまり、新型コロナやHIVのように陽性か陰性かのどちらかに分かれるものではなく、その傾向が強いか弱いか、医学的にADHDと診断されるほどのレベルかどうかという点がポイントです。

 仮に、家庭でも学校(職場)でも深刻な問題を抱え、ADHDと診断されたとしても、すべて社会生活においてマイナスなわけではありません。21世紀のいま、ADHDは「困った人」と分類されることが多いですが、長い人類の進化の過程で淘汰されることなく、世界中の国に少なくない割合で存在することを考えれば、それは人類にとって十分に必要な特性だったといえます。

 物音や人の動きに敏感で、絶えずキョロキョロ視線を動かし、落ち着きのない人も、はるか昔の狩猟時代には獲物を見つけ、常に肉食獣から逃れなければならない点においては圧倒的な強みです。逆に物音や人の動きに鈍感で、同じ場所にじっとしていられる人は獲物を見つけることができず、ライオンやトラに襲われる確率が高かった。ようするに、ADHDの特性はその評価がまったく逆で、このわずか200年ほどの間に急激に発展した文明社会では、生きづらい側に追いやられているということです。

 ADHDは創造性に富み、誰もが考えつかないアイデアを思いつくといった特性があり、音楽などの芸術、クリエイティブな仕事に向いているという調査結果もあります。大河ドラマ「べらぼう」に登場する平賀源内先生のようなイメージでしょうか。

 人間関係に疲れやすい私にとってはすごく興味深く、皆さんも「なるほど」と思わず手を打つ一冊でしょう。(静)