
有名無名の人々がそれぞれの視点と感性で人生模様を鮮やかに切り取った、粒ぞろいの名文集をご紹介します。
内容 新古書店で何の気なしに買い求めた一冊が大変面白かったことから、このシリーズを買い始めました。本書は1991年のベストエッセイ集で、先ごろ他界された長嶋茂雄氏とともに「ОN時代」を築いたホームラン王、王貞治氏の一文「“眼”」が特に印象的でした。
特徴的な大きな眼の持ち主である著者だが、その「眼」こそ彼の人生にとって大切な切り札になった。
現役時代、デッドボールを受けることがほとんどなかったのは「ボールが見えた」から。ボールの音が聞こえるほど顔面すれすれに通ってもピクリともせず不動のままバッターボックスにいられる。「するとどうなるか。投手に恐怖を与えられるのだ」。よく投手から、「王さんの大きな眼でにらまれると、もう魅入られたように好球を投げてしまう」と言われたものだという。
しかしその「眼」を得るためには、人一倍の努力が裏にあった。ブルペンで投球練習する投手にことわり、バッターボックスに立たせてもらってボールを見る訓練をし続けた。そしてもう一つ、幅5㌢、長さ30㌢の短冊形に切った新聞紙をつるし、日本刀で切る。短冊が面でなく線を見せた時、初めて刃が真横に入り、ものの見事に切り落とせる。最初は50回振って切れるのは1、2回。やがて百発百中になる頃には「ボールの回転、ボールの縫い目」まではっきり見えたという。
その「もの」が見えれば、それへの恐怖は消える。一つの時代を築いた人ならではの、示唆に富む名文でした。(里)

-218x300.jpg)
