
ライトノベル「サザンクロス新人賞」において、史上初の最優秀賞と読者賞をダブル受賞してデビューした天羽カイン。さらに、吉川英治文学新人賞、山本周五郎賞、大藪春彦賞などを受賞するもなぜか直木賞だけには縁がなかった。なんとしても直木賞が欲しい。そんな四十八歳の女流作家の物語である。
作中、現役作家をモデルとした人物が何人も登場する。例えば南方権三(北方謙三)、宮野みゆき(宮部みゆき)、馳川周(馳星周)及び一条院静馬(伊集院静)等である。
また、本作は文藝春秋社から刊行されており、「週刊文春」に於ける「文春砲」のスキャンダルのもみ消し等の話も出てくる。
直木賞は文藝春秋社主催だが、内部の日本文学振興会で候補作と受賞作が決定される。候補作がどのような経過で選ばれるのか具体的に書かれ、出版不況の中、作家という職業がいかに割に合わない仕事かも述べられている。
直木賞の本選考は重鎮の作家たちによる選考会(料亭・新喜楽にて)で行われることは誰もが知っている。しかしその候補作を選ぶ予備選考はどのようになっているかはあまり知られていない。予備選考は、「オール讀物」から四名、文藝春秋社出版部より十名、文庫部より六名、そこに振興会から二名が加わった二十三名で進められる。すべての作品に〇△×をつけ、〇は1点、△は0・5点、×は0点として順位をつけていくのは本選考と同じである。
天羽カインはどの文学賞より直木賞が欲しい。小説が出来上がる過程は編集者と共に歩むものである。 日本ペンクラブ主催で「有吉佐和子生誕90年記念祭」が催された際、私はこの催しに参加した。そのとき、「ペンクラブ」のPENの意味を始めて知った。PENの「P」はPOETで、詩人。「E」はEDITORで、編集者。そして「N」はNOVELISTで、小説家だ。編集者がいなければ小説は本にもならなければ出版されることもない。本書では天羽カインが編集者と共に直木賞作家となるまでの過程が克明に描かれる。
そして編集者と共に歩んだ自信作が見事直木賞を受賞したのである。しかし受賞会見の席上、天羽カインは受賞を辞退することを宣言する。
天羽カインにいったい何が起こったのか。あれほど渇望した直木賞をなぜ辞退しなければならなかったのか。そして直木賞とはいったい何だったのか? それを教えてくれる小説である。(秀)


