
江戸の下町の商家を舞台に、客が主人の代わりに対応する17歳の娘に不思議な話を語る宮部みゆきの「三島屋変調百物語」シリーズが、最新刊の「猫の刻参り」で10作目となりました。本作「三島屋変調百物語事始(ことはじめ)おそろし」はそのスタートの第1作。プロローグの「曼殊沙華」ほか「凶宅」「邪恋」「魔鏡」「家鳴り」の4編が収録されています。
物語の舞台は、江戸の袋物屋「三島屋」。主人の伊兵衛はとある事情で実家に戻れない姪のおちかを行儀見習いの女中として働かせている。「曼殊沙華」はある日、伊兵衛が急な用事で外出することになり、訪問予定の客の対応をおちかに命じる。おちかは不安に駆られるも、自分を信じてくれた伊兵衛の期待に応えるためにも客に対応するが、訪れた男は応接室の「黒白(こくびゃく)の間」に足を踏み入れた瞬間、血の気を失い卒倒する。
2話目の「凶宅」の客は越後屋のおたかという名の女。腕利きの錠前直し屋の辰二郎の娘で、家族は両親と兄と姉、弟の6人。ある日、深夜に仕事から戻った辰二郎が寝た子を起こしてまで家族を部屋に呼び集め、どこかの金持ちの客から依頼されたという奇妙な話を語り始めた。おたかが語るある屋敷とそこにあった生き物のような木の錠前にまつわる話はなんともミステリアスで、やがておたかは暴れだし、意識を失ってしまう…。
三島屋の百物語のルールは「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」。閉ざされたおちかの心を溶かす、自称怪談作家の著者が誘う、江戸っ子の極上の怪異ワールドをお楽しみください。(静)