4月のテーマは「入学」。芥川賞作家の自伝的小説をご紹介します。
 「高校時代」(三田誠広著、河出文庫)
 シンプルなタイトルですが、当時、1964年の高校時代は、学生運動が盛んな大学生たちを見習うように熱い時代でした。主人公は名門の進学校に進みながら、社会への目覚めや反抗、そして初恋など、不安の迷路をさまよいます。

* * *

「おい、ここに座ろう」と高松が言った。
「え、一番前か?」

 真がしぶっていると、高松は真剣な顔で言った。
「担任の先生に、ちょっとでも早う顔憶えてもらわなアカンからな」(略)

 女生徒たちは、窓ぎわにかたまって座っている。どの顔も同じように見えたが、中ほどに座っている、友だち同士らしい二人の少女が、きわだっている気がした。(略)真は左側のひかえめな少女に惹かれた。じっと見ていると、少女の表情やちょっとした仕草の一つ一つが胸ににじみこんできた。席が離れているので、声はきこえない。けれども真には、遠くから眺めているだけで、その少女の聡明さがわかるように思われた。