昨年は没後40周年だった、和歌山が生んだ文豪有吉佐和子。半世紀近く前の作品が今、テレビをきっかけに初版をしのぐ勢いで売れてベストセラーとなっています。 

 物語 青磁ひとすじに制作を続けてきた陶芸家の省造。ある日、デパートの注文品とともに、会心の出来栄えの筒形の美しい壺が焼き上がった。惚れ惚れと見つめる省造だが、訪ねてきた業者から「古色をつけてくれ」と注文される。古色をつけるとは、年代物に見せかける細工を施すこと。業者が帰ったあと妻は夫の心を見抜き、知らぬふりをして古色などつけないきれいな状態のまま、青い壺をデパートに注文品と一緒に渡してしまう。(「第一話」)

 青い壺はデパートから、世話になった上司へのお礼にと買われ、上司の妻から知人に譲られ、母親の手術の成功のお礼に医師へ贈られ、盗み出され、骨董市に出され…やがて海を越えてスぺインにまで渡り、かかわる人々に何事かを感じさせていく壺。生き生き描かれる普遍的な人間模様が、時代を超えて読む者を惹きつけます。

 私が好きなのは第7話。医師の母が、患者からお礼に贈られた壺を見て記憶がよみがえったと、息子の嫁を相手に戦時中のとびきり贅沢な一夜を語ります。医師の父の「人間には贅沢が必要なんだ」という一言はまさに真理。それは心の贅沢のことで、令和の今こそ必要なのかもしれません。

 ちょうどいま和歌山市にあるわかやま歴史館では、有吉佐和子所蔵の青磁の品が展示されています。5月30日まで。小説と同じ形の青い壺もあり、今月26日からは自筆原稿も展示されます。(里)