
4月のテーマは「入学」。文豪・夏目漱石の前期作品、熊本から上京して東大に入学した青年の物語をご紹介します。
「三四郎」(夏目漱石著、新潮文庫)
時は明治。熊本から東京に出てきた三四郎は、国内最高の学問の府で、勉学に恋にと懸命に取り組んでいきます。
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正門のきわに立った三四郎から見ると、坂の向こうにある理科大学は二階の一部しか出ていない。その屋根のうしろに朝日を受けた上野の森が遠く輝いている。日は正面にある。三四郎はこの奥行のある景色を愉快に感じた。(略)法文科の右のはずれから半町ほど前へ突き出している図書館にも感服した。よくわからないがなんでも同じ建築だろうと考えられる。その赤い壁につけて、大きな棕櫚の木を五、六本植えたところが大いにいい。(略)三四郎は見渡すかぎり見渡して、このほかにもまだ目に入らない建物がたくさんあることを勘定に入れて、どことなく雄大な感じを起こした。「学問の府はこうなくってはならない。こういう構えがあればこそ研究もできる。えらいものだ」――三四郎は大学者になったような心持がした。