岸本周平知事の突然の訃報。2022年11月の知事選に向けた会見で岸本氏が「私は(衆議院議員として)17年間、辻立ちというスタイルでやってきた。人の話を聞くのが好き。路地裏を歩き、スーパーで自転車のおばちゃんの話を聞いている」と話していたのを思い出した。この辻立ち戦法で衆議院時代は自民党の候補者に5連続勝利。知事選ではその宿敵の自民党から推薦を受けたのは、複雑な政争が背景にあったとはいえ、岸本知事の手腕、人柄が買われてのこと。

 常に弱い立場の視点に立って県民一人ひとりに寄り添い、県民を笑顔にすることを優先。知事になってからは防犯上で辻立ちができなくなったが、各地のタウンミーティングで県民とひざを突き合わせてきた。体は細いがバイタリティーにあふれ、筆者が以前、「いつも肌ツヤいいですね」と話しかけると、「そうですか~」と気さくな笑顔を浮かべていた。週一の会見では記者の質問にまず「ありがとうございます」と言って回答。腰が低い人とは思わなかったが、感謝の気持ちを大切にしていたのだろう。

 大蔵省出身で財政問題に造詣が深く、知事に就任後すぐに県に財政危機警報を発出。事業見直し、歳出削減などを断行する半面、公約だった給食費の無償化を実現。こども食堂は当時46カ所だったのを、105カ所まで増やした。白浜空港の滑走路延伸、ロケット産業の発展などにも力を尽くしたが、やはり道半ば。本人が一番悔しがっていると思う。

 県民が深い悲しみに暮れたとしても、県政の歩みを止めるわけにはいかない。知事選はもう目の前。次のかじ取り役をどうするのか、県民みんなが真剣に考える時だ。(吉)