
2022年7月8日、日本の憲政史上最長、通算3188日にわたり首相を務めた安倍晋三元首相が奈良市の近鉄大和西大寺駅前で選挙の応援演説中、銃撃され、死去した。総理経験者が殺害されたのは1936年に岡田啓介、高橋是清らが殺害された二・二六事件以来の出来事で、国内外に大きな衝撃が走った。
警察は現場で安倍氏に向けて手製の銃を発砲した男を取り押さえた。安倍氏はその場で意識を失い、心肺停止状態に陥り、ドクターヘリで橿原市内の県立医科大附属病院高度救命救急センターへ搬送されたが、同日夕方、死亡が確認された。67歳だった。
男は逮捕後、5カ月以上に及ぶ鑑定留置を経て、殺人などの罪で起訴されるも、事件の争点や証拠を確認するための公判前整理手続きがまだ終わっておらず、現在も裁判員裁判は始まっていない。男は逮捕後の調べに対して、自分の家庭を破壊した母親が入信した宗教教団に恨みがあったとし、安倍氏を狙った理由については「政治信条ではなく、教団と近しい関係にあると思った」などと供述した。
前置きが長くなりましたが、本作はこの事件を基にしたフィクション。内容としては、事件は本当に逮捕された男の単独による犯行なのか、安倍氏を撃った真犯人が別にいるのではないかという話。62年前のケネディ米国大統領暗殺と同様、事件には大がかりな組織的背景があり、国政に強大な影響力を持つ組織による策謀が浮かび上がるサスペンスとなっています。読み物としては面白く仕上がっていますが、読み手の政治的スタンスや興味によっては、途中でやめてしまう人もいるようです。
実際、約3年前に安倍氏が凶弾に斃れて以降、政治、とりわけ与党自民党内の力のバランスは支持率とともに安定を失い、菅義偉、岸田文雄の2人の首相を経て、安倍氏が最も危険視していたといわれる石破茂現首相が総裁選に勝利した瞬間、事件後から進んでいた党内の左翼革命が完結したという見方も少なくありません。
いったい何をやりたいのか、日本をどんな国にするのか、どうやって日本の領土と国民の命を守るのか、この時勢になぜ商品券を配ったのか…。現実の石破政権の混迷ぶりに、この本を読んであらためて、大きすぎる事件の影響を痛感します。(静)