
著者は、クラシック音楽をどの都市で、どのような料理を食べて、どんなホテルに泊まって聴けば最も相応しいかを書いている。クラシック音楽の「地球の歩き方」である。
例えば香港。ここでは、ベートーベンやブラームスなどの組み合わせは違和感を覚えるという。しかしこれは東京の暗喩なのだ。ただホテルはペニンシュラで、食事は福臨門九龍門店がクラシックには最も最適で衝撃の味だと述べている。
次は音楽の都ウィーン。ここには世界に名だたるムージークフェラザールという音楽会場(楽友会ホール)がある。このホールで聴くべきは何かといえば、ピアノは残響がつきすぎて心地よくないので、そうなればウィーン・フィルしかない。音楽の細部が生き生きとして濃い情感を持って伝わってくる。ホテルは街の中心部にあるカラヤンやバーンスタイン、小澤征爾も宿泊したホテルがいいという。ここではオペラの主人公のように振舞うのがいい。田舎者には場違いだという懸念には及ばない。なぜなら朝食会場で周りを見渡せば同じような「おのぼりさん」が沢山いるのだ。
オペラの本場イタリアではどうだろう。まずはフィレンツェ。ここのオペラのチケットなどはまず売り切れている。しかし諦めてはならない。窓口の人と言葉を交わし知り合いになることだ。何度目かのとき、そっと後ろから切符を出してくれるという。こういう日のために外国語は学ぶべきだというのである(著者は英語、独語、伊語が話せる)。
ヴェネツィアは冬に訪れるのがいい。オフシーズンなのでホテルもレストランも値段が下がる。冬は雪がことのほか似合う街だそうだ。サンマルコ大聖堂に雪が舞い散る様は幻想的で夢見心地になるという。そしてラ・フェニーチェは世界で最も美しいオペラハウスだそうだ。
フランスではリヨン。リヨンで首席指揮者を務めるのは日本人の大野和士。彼の音楽は明快でいながら情熱が強く、大野の指揮で聴くと複雑な楽譜から様々な音が漏れなく聴こえてくるという。そして大野のベストパフォーマンスはワーグナーだ。
最後は日本。ここで意外な場所は六ケ所村(青森県)だ。ここにコンサートホールがある。この地で聴くリストの「ロ短調ソナタ」(演奏・ポゴレリチ)はロマン主義のエッセンスそのものとして輝いている。
さて、あなたはどの都市(まち)で、音楽を聴きますか?(秀)