人気アニメ「ガンダム」ファンの年齢層は幅広いが、筆者は御坊市の今は無きグランド劇場で「哀・戦士編」を観てカイ・シデンに惚れ込んで以来、ファン歴およそ45年である◆それまでの単純な勧善懲悪のアニメとは一線を画していた。類型的でない深みある人物造形。正義と悪の戦いという二元論的世界観とは根本的に違う、独立戦争という舞台設定。敵方ジオン公国のエースパイロット、シャアが実は先君の忘れ形見で現政権のザビ家への復讐を目論んでおり、その妹が身分を隠して主人公と同じ地球連邦軍側にいるなど複雑な設定から展開されるドラマは実に面白かった。ニュータイプの描き方は共感力を高めていくところに人類の可能性があると示唆しているようで、戦争の終結が描かれた大団円も強く心に残り、反戦への志向をそこに感じ取った◆なのに7年後に続編「Zガンダム」の制作が発表。商業的な理由しか考えられず激怒し、以降数多くつくられた作品群は観ていない。「ファーストしか認めない」と広言していたら「そんな人こそ観るべき」と20代の同僚に勧められ、最新劇場作品「ジークアクス」を鑑賞した◆結果からいうと実に楽しかった。オールドファンの心をくすぐる「つくり」にまんまとやられただけでなく、人物の内面と背景、現在の世界をも反映しているような難民と一般市民の共存社会を丁寧に描く基本的な制作姿勢がよかった。つくり手の情熱が的確に反映された面白い作品であれば、世代を問わず人を惹きつける。その原則は時代が進んでも変わらない◆おかげで「ファーストしか認めない」という呪縛が解け、「Z」も機会があれば鑑賞したい。ジャーナリストになったというカイをまだ観たことがないので。(里)