
東京大会からオリンピックの正式種目となり日本選手が目覚ましい活躍を見せているスケートボードの世界を、38歳カメラマンの視点から描いた青春小説をご紹介します。
物語 パリオリンピックを控えた2024年、春。38歳のスポーツカメラマン与野は、5000㍍走の五輪日本代表選考会場で暴力沙汰を起こし、謹慎処分となっていた。目標だった五輪での撮影もかなわず、週刊誌の芸能カメラマンも務まらず、夜の渋谷を当てもなくさまよい、思議な熱のこもった若者たちの集まりに迷い込む。その空間に君臨する、金髪をふわっとなびかせてスケートボードで失踪する一人の若者、大和エイジに彼は魅せられる。東京オリンピックで金メダルをとりながら、表舞台から姿を消していた謎の若者だった。
そして2人の奇妙に熱い夏が幕を開ける―。
本書の何よりの特徴は、的確な描写でスケートボードというスポーツそのものの爽快感を伝えてくれていること。的確なツボに針を打ち込むように、最小限の言葉でダイレクトに大和エイジの滑りを描写し、読む者の脳裏に鮮やかにその映像を浮かび上がらせます。視点が38歳のカメラマンからなので、年長読者にも入り込みやすい。
金髪をなびかせ夜の渋谷を跳ぶ東京五輪金メダリストの大和エイジ、許せない同業者に怒りの鉄拳を振るったことから仕事を干されている中年カメラマンの与野を中心に物語はドラマチックに展開。ちょっと事件に巻き込まれすぎという感じはするものの、読者を飽きさせません。
年齢問わずお勧めできる、王道の青春小説です。 (里)