ドラマ「SHOGUN 将軍」でプロデューサー兼主演を務めた俳優の真田広之さんは、2003年の映画「ラストサムライ」の武士役のオファーを受け、「日本人が見て恥ずかしくない日本人が描かれた初のハリウッド映画を作る」という意気込みで撮影に臨んだ。

 それまでは、「ハリウッドにちゃんとした日本の時代劇が撮れるのか」と思っていたが、監督に自分の考えをぶつけ、それでも誤解と偏見に満ちた欧米人好みの日本人を演じさせられるなら、降ろされてもいいという覚悟で現場に乗り込んだ。

 結果、ハリウッドで最も日本をリスペクトしていると評される作品に仕上がった。撮影終了後、スタッフとの食事会ではさぞ嫌われているだろうと思いきや、「おまえの情熱に、忘れていた情熱を思い起こさせてもらったよ」と感謝された。

 たしかに、それまでのハリウッドが描く日本は、玄関に盆栽が飾ってあったり、やたら意味不明な漢字の掛け軸があったり、食事は常に割りばしでそばをすすっていたり…。観客はそれだけで幻滅し、演じる日本人俳優はストレスや怒りを覚えるはず。

 真田さんは昔、アル・パチーノに憧れ、スターとしての振る舞いを見るためだけに米国の劇場まで足を運び、雪の中を震えながら〝出待ち〟したことがあるという。この純粋な憧れと、自分もいつかああなりたいという熱意が成長の力となったのは間違いない。

 一方で、「あんなふうにだけはなりたくない」という抑圧された怒りも同じで、真田さんの場合はそれが過去のハリウッドの日本像だったのかも。ゴールデングローブ賞4冠に続く全米映画俳優組合賞、まさに俳優界の大谷翔平である。(静)