先日、第172回芥川賞を受賞した作品をご紹介します。前回紹介したもう1つの受賞作品「ゲーテはすべてを言った」とは、いろんな意味で対照的です。

 物語 タヒチ島の近くを舞台に、美男美女が集まって恋愛リアリティショー「DTОPIA(デートピア)」2024シリーズが繰り広げられる。女性は1人、ミスユニバース。男性は、Mr.LA、Mr.東京ら10人。Mr.東京は本名井矢汽水、通称キース。一重まぶたにエラの張った、典型的な日本人顔をしている。女性が全員と順にデートして最後に1人を選ぶという当初のコンセプトは早々に崩壊。女性の使用人との浮気、何者かによる使用人への制裁、新たな女性メンバー達の投入など、ハプニングが続出する。その全てはネット上で公開され、オーディエンスの反応がまた次の展開を呼んでいく。新メンバーの1人の視点から、Mr.東京の驚くべき過去が次第に明らかに…。

 最初はよくあるクローズドサークルものかと思い、あまり気乗りがしなかったのですが、読み進むにつれて物語の様相は飛躍的に変貌、読者の前に提示される登場人物の内面もみるみるうちに変化を遂げ、最初とは全く異なる世界観が出現します。

 ガザでの戦闘。仏領ポリネシアで繰り返された水爆実験。人種的、性的マイノリティの子どもたちが陥る過酷な運命。自身のアイデンティティを保ちつつサーヴァイヴするにはどう動けばいいか。

 軽妙な文体を用いながらその奥で、全ての読者に対して世界に向かうスタンスを問いかけてくるようです。その視線の鋭さにはたじろぐほど。簡単には答えの出ない問いが、読む者の心には残ります。     (里)