
和歌山県出身、在住の著者による、昨年11月に出版された素敵な絵本「もりやまさんとまちやまさんは」をご紹介します。もりやまさんとまちやまさんは「山」です。
物語 「きがいっぱいのもりやまさんと たてものがいっぱいのまちやまさん」はお隣同士だけど、見た目も暮らしのサイクルも対照的。日の入りとともに眠るもりやまさん。夜にはますます明るくにぎやかになるまちやまさん。冬が来て雪が積もると、溶けるまで眠り続けるもりやまさん。見つめ続けるまちやまさん。「たまにはあいたいなぁ」
でも、春が来るとまた会えることをまちやまさんは知っています…。
絵の色彩がとても美しい。もりやまさんのいろんな色調の緑、まちやまさんから上がる新年のお祝いの花火、夜空の澄んだ青。見開きの絵を隅々まで眺めると、繊細に描きこまれた世界の変化を楽しむことができます。冬のもりやまさんから動物たちがふもとへ降りてきている、まちやまさんのてっぺんで少しずつお城が建てられている等々。私が特に好きなのはお祭りの夜、まちやまさんから無数のランタンが飛んでいく場面です。
そのままの相手をまるごと認め合い受け入れ合う2人。どんな個性でも「それでいいんだ」と全肯定する。摩擦の激しい現実世界とは別次元の、でも本当は現実こそこうあってほしい、自然体が心地よい世界。そして最後のページで示される大きな視点に読む者は「はっ」として、それから心のうちに力強い熱源をもらったような気持ちになります。ぜひ手に取って、隅々まで行き届いた創り手の思いを味わってもらいたいです。 (里)