
政府拉致問題対策本部と県など主催の北朝鮮による拉致問題を考える国民の集いが25日、和歌山市のホテルで開かれた。2002年の被害者5人の帰国以降、1人も取り戻せていないなか、家族会事務局次長を務める横田哲也さん(56)はいまも北朝鮮寄りの考えを持つ人や政治家、メディア、間違った情報を正しいと思っている人は多いと指摘。被害者家族の親世代が存命のうちの全員の一括帰国を実現させるため、理解と協力を呼びかけた。
集いは、拉致の実態と北朝鮮との交渉の経過、現状等を報告し、国民に理解と関心を高めてもらうことを目的として、全国各地で開催。和歌山県では初の今回、約230人が参加した。家族会(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)の横田さんと拉致の可能性を排除できない行方不明者辻與市氏の兄辻太一さん(77)が登壇。朝鮮半島情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授(65)が講演した。
横田さんは、昨年、石破茂首相が示した東京と平壌に連絡事務所を設置するという構想について、「これは一見、前へ進んでいるような印象で聞こえはいいが、まったく意味のない不要なこと」と、受け入れる考えがないことを強調。その理由として、北朝鮮には国民に自己批判や相互批判をさせる生活総和という強制的な反省会があることを挙げ、「北朝鮮政府は誰がいつ、どこでどんなことをしたかといった情報をすべて把握しており、当然、日本人拉致被害者がどこにいるかも分かっている。それを『分かっていない』という前提で、(連絡事務所等を開設して)『一からやりましょう』というのは許せない。しかし、これに賛同する国会議員もいればメディアもいる。そういう人は北朝鮮の実情をまったく分かっていないか、北朝鮮の息がかかっているかのどちらかだ」と怒りをにじませた。また、聴衆に向けても、「皆さんの周りにそういうことをおっしゃる方がいれば、それは違うと否定し、北朝鮮の生活総和の話を広めてほしい。連絡事務所の話を潰さなければ、日本がまた北朝鮮にだまされてしまう」と呼びかけた。
弟が拉致された可能性がある辻さんも、日本政府の本気度に首をかしげ、「本当に被害者を取り戻す気があるなら、拉致問題担当大臣をコロコロ変えず、米国第一のトランプ大統領に頼るだけでなく、日本が先頭に立って相手に向かっていくべきだ」と主張。李教授は「独裁者は力にしか反応しない。日本が北朝鮮の拉致被害者を取り戻せないのは、(金正恩は)力を行使しない日本が怖くないということだ」とし、「日本は残念ながら、現状ではトランプ大統領に頼るしかない。米国が圧迫を強めれば、北朝鮮は日本に寄ってくる。拉致問題はトランプ大統領の4年間の任期中に解決できなければ、二度とチャンスはないだろう」との考えを示した。