NHK大河ドラマは毎年ほぼ欠かさず見ているが、今年の第63作目については最初、あまり観るのに気乗りしなかった。戦国武将や幕末の志士が好きな筆者には関心のうすい、平安中期の貴族社会が舞台だったので、さぞかし退屈だろうなどと思っていた◆題名は「光る君へ」、主人公は吉高由里子演じる紫式部。先入観を裏切り、初回から眠気など吹き飛ばすような劇的な展開であった。物語の芯になるのは紫式部と柄本佑演じる藤原道長の「忍ぶ恋」。であると同時に彼らの関係は、生涯通じての秘かな同志でもある。史実と整合性を持たせながらの大胆なストーリー展開、人と人との関係性のきめ細かな描写。ドラマティックな展開には現代社会の人間関係にも一脈通じるものがあり、毎回先行きが楽しみになるドラマだった◆権力争いや色恋沙汰など個々の人間模様にスポットを当てるばかりではなく、大河ドラマの名にふさわしく大局をみるスケール感、時代の動きを見通す無常感をもこの物語は内包する。終盤、道長の最期に当たり正室のはからいで訪ねることができたまひろ(紫式部)は戦なき世を維持したことをたたえ、「お見事な治世でございました」とねぎらう。それは、共通の友の非運に遭遇して共に泣き、よりよき世の到来を共に願った若き日への答えであったかもしれない◆そして最後、やがて訪れる雅やかな貴族社会の終焉、力がものを言う武家社会の到来を暗示して物語は終わる。次回作は戦国の世が舞台かと錯覚しそうになったが、第64作「べらぼう」は平安期ともまた様相の違う戦なき時代、18世紀後半の江戸が舞台である。時代の性質的には令和の世と近しい気がする。1年かけてどんな物語が展開するか、楽しみだ。(里)