小石や貝殻が付いたクマサカガイの貝殻

 上出さんによると、クマサカガイは房総半島から九州西岸までの水深100~300㍍の砂泥底に生息する巻貝で、祖先は1億3500万年前の白亜紀にすでに誕生していたという歴史がある。深いところに住んでいるため、人目に触れる機会は少ないという。

 小石や貝殻を自分の貝殻に付ける理由は、自分の貝殻の強度を補強している「補強説」、貝殻の形を複雑にして捕食者から身を守っている「防御説」、海底のやわらかい泥に沈み込まないよう接地面積を増やしている「かんじき説」があるが、詳しいことは不明。名前の由来は平安時代後期の伝説的盗賊「熊坂長範(ちょうはん)」に由来する説があり、その理由も変装が得意だった長範に見立てた「変装説」、盗みに用いる七つ道具を背負った長範の姿に見立てた「七つ道具説」、周りの小石や貝殻を付ける習性を「盗む」に見立てた「盗賊説」がある。

 長範の名前に由来する海洋生物が阿尾に揚がるのは、2009年の「クマサカフグ」以来。上出さんは「希少な貝というわけではないですが、人目に触れる機会は少ないです。そんな珍しい生物が近くにいるのは面白いですね」と話している。