好きな花がいろいろあるように、好きな木というものが筆者には幾つかある。晩秋から初冬にかけて美しく色づくイチョウは、最も好きな木の一つだ◆学生時代を過ごした京都では街路樹として多くのイチョウがあった。大学祭の準備等楽しく騒々しく過ごした秋から京都ならではの底冷えする厳しい冬へ向かう季節、深い色の青空の下で、秋の陽に輝くイチョウもみじが歩道に散り敷き無数に舞う。その街の眺めの美しさは格別で、晩秋の最も好きな風景の一つになった◆当地方でも全国各地のように寺院や神社で大きなイチョウがよくみられる。古来、寺社に多く植えられているのは、水を多く含み防火作用があるためで、「寺が火災に見舞われた時に境内のイチョウが水を噴き出した」という伝説は各地にみられるという。昔から人々の身近にあって親しまれてきた木であることを感じさせる◆「金色のちひさき鳥のかたちして銀杏散るなり夕日の岡に」という有名な与謝野晶子の短歌がある。また、辻邦生に「銀杏散りやまず」という長編小説があり、さだまさしにもそのタイトルを由来とする同名の楽曲がある。その鮮やかな明るい色彩と潔くも華やかな落葉が詩心を誘い、人生を深く考えさせる木であるかもしれない◆そのイチョウの黄葉が、11月から12月の風物詩になりつつあるようだ。各地で黄葉の例年に比べての大幅な遅れが報じられ、12月に入った今なおその葉は青い果実を思わせる黄緑色。「地球温暖化」についてはことあるごとにニュースで取り上げられるが、夏が長く秋があまりにも短くなっていることには、憂いを通り超して危機感を覚える。日本人の詩心と一緒に、地球の健康も危機的状況にあることが示されているようだ。(里)